ブックデザインコース「ブックデザインの魅力」( 講師:鈴木成一)

鈴木成一デザイン室の代表こと鈴木成一さんのイベントに行く。鈴木さんは途方もない量の装丁を手がけていて(30年間で1万冊といわれている)、しかも作風の幅広さがすさまじい。個人の方が運営しているサイトだけど、ここに一覧を発見。知っているあの本この本がございませんでしょうか。

 

鈴木成一デザイン室 | すてきな装丁や装画の本屋 Bird Graphics Book Store


もちろん名前は知ってるけど、そういやどんな人でどんな信念を持っているのかなど全然知らないので、昔から気になっていたのでした。イベントに行く理由は、著書を読むより本人を目の前にしたほうが話が早いし、そのほうが印象を正しく捉えられるから。

会場に10分遅れで着いてみると、何やら鈴木さんと一部の人以外は席を全員立ち、ひとつの机を囲んでいる。おそるおそる近づくと、生徒が作ってきた装丁のダメ出しを、学校さながらにしているところだった。そしてこの段階で「これトークショーじゃなくて公開講座だ」とはじめて気づいた(大いなる勘違い)。

今回のイベントは、中垣信夫さんが代表をつとめるミームデザイン学校が主催しており(要は学校の宣伝イベントです)、実際にこの学校に通っている生徒が、作品をもってきて鈴木さんに見てもらう、のを見る、という内容である。

この時点で頭をよぎった「もしやイベント中ずっと立ちっぱなしなのでは?」という予想が残念ながら当たるのだけど(計2時間半)、結論から言うとそれはそれで緊張感があってよかったというか「ゲスト」っぽい視点で参加しないですんだ。まるで鑑賞者は教室の幽霊のようでもあった。

全部書き出すとすごい量になるので雑に以下。

「“いい写真”と“装丁に使いやすい写真”は別もの」
「デザインする前に(納期の関係で)先に紙を決めてといわれるけどそれは無理」
「帯はチラシだから違和感であることはOKだけどもちろんそのバランスはすごく悩ましい」「汚さは強調でもある」
「カバーが汚れやすいと返品あとの再出荷ができなくなるのでNGが出やすい」
「写真家さんによっては文字載せが絶対NGの人もいる(具体的に大物写真家の名前があたる)」
「真面目なイラストレーターさんに仕事をお願いするときは具体的に指示しすぎるとその人の発想を殺すから気を付けるように」
イラストレーターよりインデザインのほうが100倍速い」

などなど。TIPSとして書き出すと豆知識っぽくなるけど、印象的だったのは、イラストや写真の個性をどれだけ生かせるかに重きを置いているところ、生徒との会話はダメ出しが多いけど頭ごなしに起こることはなくてすべて理屈が存在しているところ、装丁もしくはデザインの成立に対する「必然性」をひたすらに追及していて、「俺はこれが好きだ」といった主観の感想が一度も出てこなかったところ。その本にふさわしい「絶対解」があると疑っていない印象。

年に数百冊におよぶ装丁を手がけるには、自分が導き出した最適解までのフローを作業者に依頼できること(最終の仕上げ・確認は鈴木さん自身がやっている)、「自分が一番この本にふさわしい装丁ができる」という自信(じゃないとこの量はこなせないはず)が必要なんだなあ、と知る。


余談1
このいわゆる「デザインの現場」っていうものがやっぱり私は苦手であることを再実感したりもした(昔、デザイナーをやってた)。人によって最適解は違うので、それをぶつけるっていうのはすごく精神を消耗する場で、私は「デザイン」っていうフィールドで人に変化を提案するだけの自信は全然ない。

余談2
ミームのイベントはけっこうコアな内容が多いので楽しい。すごく昔に参加したたときは、ゲストの鈴木一誌さんと中垣信夫さん(いわゆる大御所)が有山達也さんと古平正義さん(中堅、というか有山さんは中垣さんと師弟関係)に対して、めっちゃめちゃ仕掛ける「デザイン泥レス」で、一誌さんさんが小平さんに「なんでゴシック体ばっかり使うの?(ニコニコ)」と聞いたときは、会場全体からぼのぼの汗が出るのが見えた。