康本雅子/スズキユウリ『視覚障害×ダンス×テクノロジー“dialogue without vision”』

入場無料のダンス公演『dialogue without vision』を見てきた。吹き抜けになっているKAAT神奈川芸術劇場の広いエントランススペースを舞台にした「視覚障がい者」によるダンス公演、というのが前知識。

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舞台は10メートル四方程度の広さで、客席との段差はない。隅には蛍光色に近いピンクの縁取り。ダンサーは6人。ダンスのディレクション康本雅子さん、公演に使われるデバイスをスズキユウリさん、音楽をイトケンさんが担当していて、年配ではなく30代あたりがターゲットの「尖った」公演になることがうかがえる(ちなみに鑑賞者は写真と動画の撮影が可能)。

公演は20分程度。四方から音がする中で「ダンス」というより、身体の衝突から生じるコミュニケーションが展開される。指先の細かい触角のような動き、ひっくり返ったり、引っ張りあったり、一見すると子どもの動作のように見える振付に康本さんらしさを感じる。

注目すべきところは使われているデバイス(服や身体にセンサーがついており、触れると音が鳴ったりする)なのだけど、それよりも目が見えない人にどうやって振付を教えるのか、そして2人一組で踊っている彼らはどのような手段で相手の位置を察しているのか、そんなことばかり考えてしまう。

とはいえそんな些細なことよりも、ダンサーの「うれしい顔」が印象に残った。普段は必要以上に迷惑をかけないために、無意識化ですら制限されている「運動」に思う存分取り組めることへのよろこびが顔に表れている(なお、ダンス自体はかなりラフなものになっている)。鑑賞者を意識した笑いではなく、体を思う存分に動かせていることに対しての感情のように見えた。鑑賞者が「一緒に楽しませてもらっている」ように感じるダンスははじめて観たし、これから先もあまり見られないと思う。

余談1
終演後に配布された出演者紹介のチラシを見て、自分の勉強不足っぷりを再認識する。少し考えればわかるのに「視覚障がい者全盲、あるいはそれに近い人」と勝手に思い込んでいた。もちろん視覚障がいには様々な種類があり、今日のダンサーだけでも「中心部にノイズがかかっていて小さい文字は読めないが歩く動作などに支障はない」「チカチカした光の残像が常に見える」「中途失明(生まれつきではない)で光の明暗はわかる」「視界が狭いが中心部は良く見える」と多種多様な見え方の人がいた。

余談2
ダンサーの中で中心を担っていた加藤秀幸さんは佐々木誠監督の映画『INNERVISION インナーヴィジョン』のメインキャストの方だ、と見てる途中で気づいた。