近藤聡乃「A子さんの恋人」

A子さんの恋人 2巻 (ビームコミックス)

最近発売された2巻を読み、それまでは「面白いな~」ぐらいだったのが「大変だ! クッソ面白い!!!!!!」に位があがり、身の回りの人に見境なく貸しまくっている。今手元にない4冊と、これを書くのにあたり今買ってきた1冊をあわせて計5冊(1巻が3冊、2巻が2冊)を所有中。この只事ではないこの事態をどうにかして伝えたい所存。

主人公とは思えないほどぼんやりした地味な女ことA子、人の懐にうまく入り込む調子のいい駄目男ことA太郎、性格の悪いインテリ眼鏡アメリカ人のA君(この二人がA子と「一応」付き合っている)、その他女3人(モテるが性格が悪いU子、真面目でモテないK子、自分のことを名前で呼ぶ女ことI子)の恋愛群像劇。全員そろって29歳。

キャラ立ちが面白いのはもちろんだけど、コマ割りや画面を埋める白と黒のバランス、ミニマルな描写なのに言葉を添える必要のない絵の説得力、そのすべてが美しい!(故にくだらないギャグシーンもなんだかとっても艶っぽい) 現代美術作家としても知られる近藤さんの底力が、漫画というフィールドで最大限に発揮されている。

帯や宣伝文句で煽られている「A子さんには恋人がふたりいる」というキャッチコピーの印象は、読み進めるたびに徐々に薄れ、この作品の面白さがそんな俗っぽいところじゃないところではないことにすぐ気づけるはず。いわゆる「あるある(こういう奴いるいる)」に頼り切るのではなく、描かれる心の動きの細やかな部分が、まるで酸素のように読み手の体内に入り込んで、じわじわと侵食される間隔がこそばゆい(でも自分の欠点に似ている描写が出ると、心の中で小さい絶叫が響きわたるのだが…)。

登場する5人は、全員がレッテルを貼りやすい、いわゆるステレオタイプなキャラクターでありながらも、それぞれがしっかりと「面倒くささの集合体」として描かれている。「私はK子に似てる」ではなく、A子の優柔不断さも、A太郎のずるさも、A君の葛藤も、U子のわがままさも、K子の要領の悪さも、I子の視界の狭さも、おそらくほぼすべて何かしら身に覚えがある、愛おしい駄目さだ。今のところ身近な4人ぐらいからこの作品の感想を聞く中で「誰かれが好き」という感想はあれども「アイツは嫌い!」という声は耳に入ってこない。「みんな違ってみんないい」が深いところで嫌みなく描かれている、まさに奇跡的なバランス。

また、こういったアラサー特有の人生転換期を作品の背景にすると、どうしても「こじらせ」「妬み」といった負の感情がにじみ出てきて、読み手をどんどん疲弊させることが多いのだけど、そういったストレスがほぼ発生しないのがありがたい(ちなみに最近だとそれが顕著なのは東○○○○先生の「○○○○○○娘」である)。これだけ「いい性格」の悪い人間がわんさか出てくるのに、そこが軽減されているのは、「絵」の力もあるだろうけど、近藤さんが「人の嫌がることをわかっている」からこそではなかろうか、というのが個人的な考えだ。

あと2千万字ぐらい褒め称えられるけど需要がなさそうなのでやめ。もし「1巻は読んだし、面白かった」という人がいたら迷わず2巻を読むべし。1巻は(おそらくだが)近藤さんも色々模索して描いているので、読み手との距離が若干遠いのだけど、2巻になるとそれがぐっと近づいてきてすごく楽しい。あと2巻は間違いなく「A君の見せ場」なので、A君推しの女性読者は必読である(A太郎みたいな阿保を死ぬほど知ってるので(主にバンドマン)個人的には全然惹かれない~!!)

コミナタのインタビュー(1巻発売時)が素晴らしいので最後に貼っておきます。