広瀬友紀「ちいさい言語学者の冒険――子どもに学ぶことばの秘密」

ちいさい言語学者の冒険――子どもに学ぶことばの秘密 (岩波科学ライブラリー)

GW中に会った同僚の子供(1歳9か月)がまあよく喋る。人や物の見わけがつくようになり、車を差しては「ブーブー」と呼ぶ。消防車と救急車の区別がつかなくて両方「きゅうきゅうしゃ!」と指を差し、大半の動物が「わんわん」になる。慣れないものだから「視界ってもう大人と同じように見えてるの?」と同僚にすっとんきょうな質問をしてしまったり。

あらゆる事と物に名称がついているっていうのを認識するまでのプロセスも気になるけど、この先の「文法と言語の習得方法」なんてもっと想像がつかない。もちろん親をはじめとする周りの人間とのやり取りの中で学ぶわけだけど、その詳細について考えたことなかったな、と専門書を頼る。

ちいさい言語学者の冒険――子どもに学ぶことばの秘密 (岩波科学ライブラリー)

ちいさい言語学者の冒険――子どもに学ぶことばの秘密 (岩波科学ライブラリー)

 

実際に子供を持つ、著者で言語学者の広瀬さんによると「言語習得について概論的な解説をするのではなく、生の観察から伝える本」ということで、同書には具体的な事例が語り言葉で書かれている(めっちゃ読みやすい)。子供言葉で「なんで死“む”の?」という誤用があるあるなのはわかるけど、なぜ活用方法が「死“む”」になってしまうのか(読んでその理由に納得)といった文法的な発見から、文の区切りを認識する前のエラー読みについて(五七五がなぜ気もちいいリズムなのかという解析にもなっている)、子供に「か」や「さ」に濁点をつけてもらうと正しく「が」や「ざ」を即答できるのに「“は”に濁点」が理解できない理由などなど、母国語の知らない知識と出会うことができる。

タイトルに「冒険」とあるように、文法の知識だけでなく、それを習得する前の子供のトライアンドエラー事例も多い。親から言葉の間違いを指摘されてもそれを鵜呑みにせず、脳内できちんと整理ができてから使うようになるまでのタイムラグがある話がよかった。人工知能もいいけど、身近な生々しい学習する知能の内面も見逃せないなーと。いま身近にちいさい言語学者がいる人にはぜひ。