くらもちふさこ「α」
漫画のことをポツポツ書く中で触れたいテーマがいくつかあり、そのうちのひとつが「連載誌で読むべき漫画問題」だ。漫画読みには「単行本派」と「連載派」という2大勢力があり、頻繁に「ネタバレ」をキーワードに死闘を繰り広げているが、そのあたりの是非はともかく、この世には「連載で読んだほうが死ぬほど面白い漫画」が間違いなく存在している。
たとえば「ONE PIECE」の頂上決戦の際の盛り上がりは異常な熱でネット上に広がったし、週刊連載ならではの一話の短さが展開のハラハラさを盛り上げるパターン(スポーツ漫画の試合)など、そのバリエーションは多岐にわたる。いくつか思いつく作品があるので、今後取り上げていきたいと思う。
その中でもかなりレアケースなのがくらもちふさこ「α」(上下巻、2003年刊行)だ。当時は連載誌で読んでいたのだが、数年後に読み直そうと思って単行本に手を出して驚いた。収録の「順序」が連載誌と違っている。具体的には、全12話が「1話、7話、2話、8話、3話、9話…」の順で載っているのだ。しかも話の構造的に、順序が変わってもそれが話の根本を変えるものではないので、単行本派は気づかないという仕組み。実際にamazonレビューでは、誰もそこについて言及していない。
この順序変更に良し悪しはなく、確かにこの変更によって話は圧倒的にわかりやすくなるのだが、「連載派」が味わうことになった「予想外の展開」は完全に失われており、結果的に同じ作品を読んだファンでもその印象は90度ぐらい変わることになっている。
もし、どういうことなのか興味があれば、2008年に発売された文庫版には元の順番で収録されているので、こちらから手に取ってもらうことをオススメする(「α」に連載時の1~6話、「α+」に7話~12話が収められている)
タナカカツキ「マンガ サ道 ~マンガで読むサウナ道~」
漫画家でアートディレクターで映像作家で「水草水槽の世界ランキング第8位」と、肩書きがどんどん大変になっていくタナカカツキさんによるサウナ指南本。2011年にも「サ道」というサウナ体験記を出しているカツキさんですが、今回はまさかの連載化。「モーニング」で月一掲載中なので続刊も刊行予定。
「サウナ&水風呂」がセットになっている理由や(「サウナは汗をかく場所ではない、前戯にすぎない」とのこと)、入り方の「基本知識」はもちろん(カツキさんの本を読むまでそんなこと知るよしもなかった)、サ道で会ったさまざまな達人たちのエピソードから、サウナ本国であるフィンランドでの「サウナの存在意義」まで、ひたすらサウナに対して描かれている作品。そのストイックさに脱帽。ちなみにカツキさんは、日本に2人しかいないという「サウナ大使」でもある。
マンガ サ道~マンガで読むサウナ道~(1) (モーニング KC)
- 作者: タナカカツキ
- 出版社/メーカー: 講談社
- 発売日: 2016/01/22
- メディア: コミック
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ブックデザインコース「ブックデザインの魅力」( 講師:鈴木成一)
鈴木成一デザイン室の代表こと鈴木成一さんのイベントに行く。鈴木さんは途方もない量の装丁を手がけていて(30年間で1万冊といわれている)、しかも作風の幅広さがすさまじい。個人の方が運営しているサイトだけど、ここに一覧を発見。知っているあの本この本がございませんでしょうか。
鈴木成一デザイン室 | すてきな装丁や装画の本屋 Bird Graphics Book Store
もちろん名前は知ってるけど、そういやどんな人でどんな信念を持っているのかなど全然知らないので、昔から気になっていたのでした。イベントに行く理由は、著書を読むより本人を目の前にしたほうが話が早いし、そのほうが印象を正しく捉えられるから。
会場に10分遅れで着いてみると、何やら鈴木さんと一部の人以外は席を全員立ち、ひとつの机を囲んでいる。おそるおそる近づくと、生徒が作ってきた装丁のダメ出しを、学校さながらにしているところだった。そしてこの段階で「これトークショーじゃなくて公開講座だ」とはじめて気づいた(大いなる勘違い)。
今回のイベントは、中垣信夫さんが代表をつとめるミームデザイン学校が主催しており(要は学校の宣伝イベントです)、実際にこの学校に通っている生徒が、作品をもってきて鈴木さんに見てもらう、のを見る、という内容である。
この時点で頭をよぎった「もしやイベント中ずっと立ちっぱなしなのでは?」という予想が残念ながら当たるのだけど(計2時間半)、結論から言うとそれはそれで緊張感があってよかったというか「ゲスト」っぽい視点で参加しないですんだ。まるで鑑賞者は教室の幽霊のようでもあった。
全部書き出すとすごい量になるので雑に以下。
「“いい写真”と“装丁に使いやすい写真”は別もの」
「デザインする前に(納期の関係で)先に紙を決めてといわれるけどそれは無理」
「帯はチラシだから違和感であることはOKだけどもちろんそのバランスはすごく悩ましい」「汚さは強調でもある」
「カバーが汚れやすいと返品あとの再出荷ができなくなるのでNGが出やすい」
「写真家さんによっては文字載せが絶対NGの人もいる(具体的に大物写真家の名前があたる)」
「真面目なイラストレーターさんに仕事をお願いするときは具体的に指示しすぎるとその人の発想を殺すから気を付けるように」
「イラストレーターよりインデザインのほうが100倍速い」
などなど。TIPSとして書き出すと豆知識っぽくなるけど、印象的だったのは、イラストや写真の個性をどれだけ生かせるかに重きを置いているところ、生徒との会話はダメ出しが多いけど頭ごなしに起こることはなくてすべて理屈が存在しているところ、装丁もしくはデザインの成立に対する「必然性」をひたすらに追及していて、「俺はこれが好きだ」といった主観の感想が一度も出てこなかったところ。その本にふさわしい「絶対解」があると疑っていない印象。
年に数百冊におよぶ装丁を手がけるには、自分が導き出した最適解までのフローを作業者に依頼できること(最終の仕上げ・確認は鈴木さん自身がやっている)、「自分が一番この本にふさわしい装丁ができる」という自信(じゃないとこの量はこなせないはず)が必要なんだなあ、と知る。
余談1
このいわゆる「デザインの現場」っていうものがやっぱり私は苦手であることを再実感したりもした(昔、デザイナーをやってた)。人によって最適解は違うので、それをぶつけるっていうのはすごく精神を消耗する場で、私は「デザイン」っていうフィールドで人に変化を提案するだけの自信は全然ない。
余談2
ミームのイベントはけっこうコアな内容が多いので楽しい。すごく昔に参加したたときは、ゲストの鈴木一誌さんと中垣信夫さん(いわゆる大御所)が有山達也さんと古平正義さん(中堅、というか有山さんは中垣さんと師弟関係)に対して、めっちゃめちゃ仕掛ける「デザイン泥レス」で、一誌さんさんが小平さんに「なんでゴシック体ばっかり使うの?(ニコニコ)」と聞いたときは、会場全体からぼのぼの汗が出るのが見えた。
西原理恵子「ダーリンは70歳」
どこで聞いたか忘れたけど「月給が100万を超えると色々どうでもなってくる」っていう話が頭に残っていて、人間の価値観を一番簡単に変える方法ってきっとお金なんだろうな、と思う今日この頃です。
「ダーリンは70歳」こと、西原理恵子と「YES!高須クリニック!」こと高須克弥のバカップル本。そして金銭感覚と価値観がとてつもなく狂っている人について、オールカラーでひたすらハイテンションに細かく教えてくれえる素晴らしいレポート本。年収50億とも噂される人の思考回路はもちろんおかしいのだけど、人としてそもそもの考え方が狂っているからこそ年収50億の実現もうなづけるという、まさかの逆説成立本でもある。
ちょっぴり感動的なエピソードが読者層を広げるためか帯に散りばめられてますが、中身は完全に下世話&突飛&そしてまた下世話な話、つまりいつもの西原節がさく裂しているので安心して読めます。フリーメイソンの内情の話もいいですが、高須先生のチャクラが開くエピソードが好きです。
Takahiro Murahashi / Satomi Iwase「グセとアルスの絵画展」
青山のユトレヒトにて。こじんまりとした会場で順路どおりに案内図をもってまわる展覧会。陶器をモチーフにした作家の絵画作品が壁一面に並んでいる。会場には音声ガイドもあるし、作家が収集していたコレクションも展示されている。作家が愛したクッキーを再現したものが売っているので、お土産におすすめ。
たまたま作家さんが在廊していたので、テンションが上がって思わずそんなキャラでもないのに話しかけてしまった。ちょっと騙されたいときにぜひ。
野田サトル「ゴールデンカムイ」
表紙のイメージとざっくりしたあらすじから「エグい&怖い&男臭い系」っていう先入観で読みはじめたら、そんなくだらない思い込みをきれいに裏切ってくれて思わず拍手。ブラボー。
生臭くてシビアな話に、雑学&グルメのアクセントを添えたら、まぁなんておいしいアラカルト。「このマンガがすごい! 2016」のオトコ編で上位に入っていたのは、話の男臭さじゃなくてヒロインのかわいさと、なんだか憎めないサイコ野郎の魅力なのだろうか。思わず「それ、大金稼ぐエピソードとしてはちょっと荒削りじゃねえか?」というツッコミを忘れてしまうぐらいのキャラ立ちが気持ちいい。あと、いっぱい書きたい事がある漫画って単純に好き。あと異文化コミュニケーションも大好き。まだ序盤なのでこれからが楽しみだな~。
ハイバイ「夫婦」
ハイバイの新作舞台「夫婦」を池袋シアターイーストで観る。バイバイはトップクラスに好きな劇団で、物語の多くは、主宰で元引きこもりの岩井秀人さんによる実体験がベースになっている。